【特別対談】麹菌研究の第一人者・尾関健二先生に聞く。麹菌研究46年の集大成。「米と発酵」が秘める、人類の健康と未来への可能性

~金沢工業大学 尾関健二教授 × MURO代表 大村~

日本の国菌「麹菌」。その可能性を科学の力で切り拓き、2026年に定年退官を迎えられる金沢工業大学の尾関健二先生。 企業研究者としてのバックグラウンドを持ち、廃棄される酒粕の再利用から、最新の気候変動対策まで、常に「実学」として社会に貢献する研究を続けてこられました。

MUROを運営する株式会社コラゾン代表の大村が研究室を訪ね、これまでの歩みと最新の研究成果、そして次世代に託す想いを伺いました。

  • 尾関 健二 教授

    金沢工業大学バイオ・化学部教授。
    農学博士 ゲノム生物工学研究所研究員

    長年、ゲノム生物工学研究所にて研究開発に携わる。
    2018年、米を原料とする市販の甘酒に、コレステロール低減と便通改善効果が高いRP成分が含まれていることを、世界で初めて学術的に実証する。
    日本酒、甘酒研究の権威の解説者として、数々のTV番組にも出演している。


尾関先生の幼少の頃から、今に至るまでに、一貫して持たれてきた関心や、情熱はどんな所にあったのでしょうか?
尾関先生「振り返ってみると、物事を『科学的・数理的』に捉えて、そこに『新しい価値』を見出すこと、これに尽きるかもしれません。
原点は高校時代です。もともとは全く目立たない生徒でしたが、なぜか急に数学が得意になりましてね。そこから、単に料理を作るとか食べるといったことではなく、食品の中に含まれる『特殊な栄養』や『機能性』を研究対象として科学的に解明したいという欲求が芽生えました。それが、農芸化学志望から農学・食品化学の道へと進むきっかけになりました。
企業研究者になってからも、そして大学教員になってからも一貫している最大のモチベーションは、『醸造副産物を高付加価値化したい』という思いです。 例えば、焼酎の蒸留廃液から美肌成分(α-EG)を発酵生産させたり、今回のように『消化されない(=栄養にならない)』と見過ごされていたレジスタントプロテインに腸活作用を見出したり。一見『無駄』や『残り物』に見えるものの中に、科学の光を当てて『宝』を見つけ出すこと。 これが私の研究人生を貫くテーマです。
そしてもう一つは『人』です。35歳の時に出向した醸造試験所で得た、他社の研究者たちとの『人脈』が、私の視野を広げ、その後の研究を支える財産になりました。だからこそ大学では、『学生を育て、胸を張って学会発表できるレベルのデータを出させること』を情熱の源泉にして、21年間走り続けてこられたのだと思います。」

 

「残り物」にこそ、福がある。
科学が照らす未利用資源の可能性

それでは共同研究・共同開発に至った、KOJI DRINK Aについてお聞かせください。主成分であるレジスタントプロテイン(RP)についても、これまではあまり注目されていなかった物質だと思います。こうした「未利用資源を科学で価値化する」という姿勢は、先生の研究哲学においてどのような位置を占めていますか?
尾関先生もともと「醸造副産物を高付加価値化したい」という思いが、私の研究の根底にあります。これこそが研究を続ける最大のモチベーションですね。
例えば、以前取り組んだ「焼酎の蒸留廃液」の研究があります。本来であれば産業廃棄物として処理に困るものですが、そこから美肌成分である「α-EG」を発酵生産し、シャンプーや化粧品として生まれ変わらせました。 RPも全く同じです。従来、タンパク質は「消化・吸収されて栄養になる」のが良いとされ、消化されずに残るRPは、栄養学的には価値がないと見過ごされてきました。しかし、科学の目で見れば、消化酵素に負けないその「強さ」こそが、腸内の余分な脂質を吸着して排出し、腸内環境を整えるという独自の機能性の源泉だったのです。

 

栄養にならず「腸の掃除屋」になる。
大豆にはない米由来RPの強固な構造とメリット

植物性でタンパク質が豊富なものでは大豆などを想起しますが、何が違うのでしょうか。
尾関先生決定的な違いは、消化酵素に対する「強さ」と「構造」です。 私たちは胃のペプシンや十二指腸のパンクレアチンを使った厳しい消化試験を行いました。その結果、大豆やエンドウ豆のタンパク質(約50〜90kDaの大きなタンパク質)は分解されて消失してしまうのに対し、米由来のRP(約13kDaのプロラミン)は、分子量の変化なくしっかりと残存することが確認されました。これは、米由来のRPが「SS結合」という特殊な結合で結ばれた強固な立体構造を持っているためです。この消化されずに形を保つという特性は、米由来のものにしかありえません。
消化されずに腸まで届くことで、腸においての影響があるのでしょうか。
尾関先生はい、そこが非常に重要です。 RPは消化されずに腸まで届くため、腸内の余分な脂質やコレステロールを吸着して、便として体外へ排出する働きがあります。実際に、継続的に摂取することでコレステロール値の低減や、便通の改善といった効果が期待できるのです。 本来、タンパク質は栄養として吸収されるものですが、RPは「吸収されない」からこそ、腸内で掃除屋のような特別な機能を発揮するのです。
さらに、地球温暖化による「高温障害米」の問題にも取り組まれているとか。
尾関先生今、猛暑の影響で米が硬くなり、酒造りで溶けにくく、酒粕ばかりが増えてしまう問題が全国の酒蔵で起きています。 これに対し、2023年頃から高温障害米用の溶解酵素剤の研究を進め、さらに2025年に向けては、オンキヨー株式会社と共同で「音楽振動(加振)」を麹菌や酵素反応に加える研究を行っています。
音楽を聴かせるのですか?
尾関先生物理的な振動を与えるということです。酵素剤で酒粕を2割減らし、さらに音楽振動を加えることでプラスアルファの効果を出し、収量を元に戻すことを目指しています。伝統産業も、新しい技術で環境変化に適応していかなければなりません。

 

「学生を育て、学会へ送り出す」ことが私の原動力

先ほどは研究室の学生の皆さんと一緒に、素晴らしい写真を撮らせていただきました。先生は長年企業で研究された後、大学へ移られましたが、教育者としてのやりがいはどこに感じておられますか。
尾関先生やはり「学生を育てること」につきますね。大学教員としてのステータスは、研究成果だけでなく、次世代をどう育てるかにあります。 私はこれまで、学部生なら200名以上、修士課程の学生も20名以上見てきました。彼らがしっかりとしたデータを出し、胸を張って学会発表できるレベルまで引き上げること。多くの卒業生が食品メーカーや関連企業に就職し、活躍しています。私の研究室からは巣立っていきますが、彼らがそれぞれの場所で、麹や発酵の技術を活かしてくれることが一番の喜びです。
先生が蒔いた種が、学生さんたちを通じて全国に広がっているのを感じます。本日は、研究の合間を縫って学生の皆さんにもご協力いただき、本当にありがとうございました。

 

最後に、我々MUROも麹の可能性を世界へ広げていきたいと考えています。メッセージをお願いします。
尾関先生かつて高峰譲吉博士が、麹菌の酵素「タカジアスターゼ」をアメリカで医薬品として実用化し、「バイオテクノロジーの父」と呼ばれました。 日本人が100年以上前に成し遂げたように、麹やRPといった日本の発酵技術は、世界に広がるポテンシャルを十分に持っています。ぜひ、科学的根拠(エビデンス)を武器に、世界へ挑戦してください。
先生から頂いたバトンをしっかりと受け継ぎ、世界へ発信していきます。本日は貴重なお話をありがとうございました。

 

  • 麹専門店MURO神楽坂

    MURO(むろ)は、麹を製造する神聖な場所「麹室(こうじむろ)」が名前の由来です。「KOJIを通じて、人々の健康や豊かな食に貢献する」をコンセプトにしたKOJI FOODS(麹を使った食品・調味料)やKOJI DRINK(麹甘酒)のブランドです。
    取り扱っている麹甘酒は全て、ノンアルコール・ノンシュガー・無添加。
    店舗には管理栄養士や発酵食品ソムリエなど、甘酒好き、甘酒通のスタッフが体質やお好みを伺って お客様に合うような甘酒の種類や飲み方を提案しております。
    沢山のこだわりの甘酒の中から、ぜひお気に入りの一本、お気に入りの作り手さんに出会って 日々の体と心の健康にお役立ていただけますと幸いです。